親が過保護な環境で育つと、何が起きるのか?

この記事の読みどころ
  • 親が過干渉だと、子どもが大人になってからの体の調子が悪くなる傾向があることが見られた。
  • 感情知能のうち「自分の感情を理解する力」と「ストレスに対処する力」が健康と強く関係し、過干渉はそれを下げることが分かった。
  • この影響は男性で特に強く出る傾向があり、内側の感情の扱いが健康に影響を与える点が重要だと示された。

親の「守りすぎ」は、あとになって体に出るのか

子どもを危険から守りたい。失敗させたくない。
そうした思いから、親が先回りして判断し、選択肢を減らし、困難を遠ざけることがあります。
このような関わり方は、研究の世界では「過干渉的な養育(ペアレンタル・オーバープロテクション)」と呼ばれています。

この研究は、そうした「守りすぎ」の経験が、大人になってからの身体的な健康と、どのようにつながっているのかを調べたものです。
とくに注目されたのは、その間にある「感情知能(エモーショナル・インテリジェンス)」という心の力でした。

この研究を行ったのは、中国地質大学(北京)の研究チームです。


研究の対象と方法

研究には、中国の大学に通う学生459人が参加しました。
平均年齢は22歳前後で、男女の割合はほぼ半々です。

調査は一度きりではなく、約2か月ずつ間隔をあけた3回の質問調査で行われました。

  • 1回目:18歳までの親の関わり方(どの程度、過干渉だったか)

  • 2回目:感情知能(自分の感情を理解し、扱い、ストレスに対処する力など)

  • 3回目:現在の身体的な健康状態(体の不調や症状の頻度)

このように時期を分けて調べることで、「どれが原因で、どれが結果か」をより丁寧に考えられるようにしています。


親の過干渉と、大人の身体的健康

分析の結果、はっきりした傾向が見えてきました。

子ども時代に「親が過干渉だった」と感じている人ほど、
大人になった現在の身体的健康状態が、全体としてよくない傾向があったのです。

これは、性別や年齢、家庭の経済状況を考慮した上でも変わりませんでした。

つまり、単に「体質」や「生活環境」だけでなく、
幼少期の親との関係が、長い時間を経て身体の調子と関係している可能性が示されたのです。


カギとなる「感情知能」

この研究の中心となる問いは、
「なぜ、親の過干渉が、大人の身体的健康と結びつくのか」という点です。

そこで研究チームが注目したのが、感情知能です。

感情知能とは、

  • 自分の感情に気づく力

  • 感情を整理し、コントロールする力

  • ストレスに対処する力

  • 状況に応じて柔軟に考える力

などを含む、比較的安定した心理的な能力です。

分析の結果、親の過干渉は、この感情知能の水準を下げる方向に働いていました。
そして、感情知能が低いほど、身体的な健康状態も悪くなりやすいことが示されました。

重要なのは、感情知能を考慮すると、
「親の過干渉 → 身体的健康」という直接的な関係が、ほぼ消えてしまった点です。

これは、親の過干渉が直接体を壊すというよりも、
感情知能の発達を妨げることを通して、長期的に健康に影響している
という構造を示しています。


どの「感情の力」が、とくに重要なのか

感情知能にはいくつかの側面があります。
この研究では、その中でも次の4つに分けて詳しく調べています。

  • 自分の感情を理解する力(内面的理解)

  • 他人の感情を理解する力(対人理解)

  • ストレスへの対処力

  • 状況に応じて柔軟に対応する力

その結果、身体的健康と強く関係していたのは、

  • 自分の感情を理解する力

  • ストレスへの対処力

この2つでした。

一方で、
他人との関係づくりや、柔軟な考え方そのものは、
身体的健康との直接的な関係はそれほど強くありませんでした。

この結果は、「自分の内側で起きている感情やストレスをどう扱えるか」が、
長期的な身体の状態にとって、とくに重要であることを示しています。


男女で違いはあるのか

さらに研究チームは、男女の違いにも注目しました。

すると、親の過干渉が感情知能を下げる影響は、
女性よりも男性で、より強く現れていることが分かりました。

男性も女性も、過干渉な養育は感情知能にマイナスの影響を与えていましたが、
その程度は男性のほうが大きかったのです。

結果として、

  • 男性では、
    親の過干渉 → 感情知能の低下 → 身体的健康の悪化
    という流れが、よりはっきりと見られました。

このことは、同じような育てられ方でも、
性別によって影響の出方が異なる可能性を示しています。


この研究が示していること

この研究は、
「親の過干渉=心の問題」という単純な話にとどまりません。

子どもの頃に、

  • 自分で感じる

  • 自分で考える

  • 自分で対処する

そうした経験が十分に積めなかったことが、
何年もあとになって、体の不調として現れる可能性を示しています。

とくに重要なのは、
感情そのものではなく、感情を扱う力が鍵になっている点です。


考え続けるための余白

この研究は、中国の大学生を対象としたもので、
すべての人にそのまま当てはまるとは限りません。

また、過去の親の関わりを「どう感じているか」をもとにしているため、
記憶や解釈の影響も含まれています。

それでも、
「よかれと思って守ったこと」が、
どのような形でその人の内側に残り続けるのかを考える、
重要な手がかりを与えてくれる研究です。

親の関わり方、感情との付き合い方、身体の健康。
それぞれを切り離さずに考えることの意味を、
この研究は静かに問いかけています。

(出典:Journal of Intelligence


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